2023年7月に「FedNow」サービス開始

米連邦準備制度理事会(FRB)が提供する「FedNow」

「FedNow」の概要

2019年に開発が始まったデジタル即時決済システム「FedNow」が2023年7月20日にサービス提供開始となるのに合わせて、2023年6月末には早期導入予定企業/団体57社が正式なテストと認証を完了したことが発表されました。

FRBプレスリリース
Federal Reserve names organizations certified as ready for FedNow® Service

<参考:早期導入予定企業/団体>

金融機関1st Bank Yuma
1st Source Bank
Adyen
Alloya Corporate Federal Credit Union
Atlantic Community Bankers Bank
Avidia Bank
Bankers’ Bank of the West
BNY Mellon
Bridge Community Bank
Bryant Bank
Buffalo Federal Bank
Catalyst Corporate Federal Credit Union
Community Bankers’ Bank
Consumers Cooperative Credit Union
Corporate America Credit Union
Corporate One Federal Credit Union
Eastern Corporate Federal Credit Union
First Internet Bank of Indiana
Global Innovations Bank
HawaiiUSA Federal Credit Union
JPMorgan Chase
Malaga Bank
Mediapolis Savings Bank
Michigan Schools & Government Credit Union
Millennium Corporate Credit Union
Nicolet National Bank
North American Banking Company
PCBB
Peoples Bank
Pima Federal Credit Union
Quad City Bank & Trust
Salem Five Bank
Star One Credit Union
The Bankers Bank
United Bankers’ Bank
U.S. Bank
U.S. Century Bank
U.S. Department of the Treasury’s Bureau of the Fiscal Service
Veridian Credit Union
Vizo Financial Corporate Credit Union
Wells Fargo Bank, N.A.
サービスプロバイダーACI Worldwide Corp.
Alacriti
Aptys Solutions
ECS Fin Inc.
Finastra
Finzly
FIS
Fiserv Solutions, LLC
FPS GOLD
Jack Henry
Juniper Payments, a PSCU Company
Open Payment Network
Pidgin, Inc.
Temenos
Vertifi Software, LLC
FRBサイトより

そして、2023年7月20日にFRBより「FedNow」が正式に稼働したことが発表されました。

FRBプレスリリース

Federal Reserve announces that its new system for instant payments, the FedNow® Service, is now live

「FedNow」はFEDに口座を保有できる機関であれば参加が可能です。そして、Real-Time Gross Settlement(以下、RTGS)をベースとしており、取引上限設定機能や支払いリクエスト専用電文機能などを備えている点が特徴となっています。

また、米国では大手金融機関が主体となって構築している資金決済システムも提供されていますが、必ずしもすべての金融機関などが参加してはおらず、今回サービスが開始される「FedNow」はより広範囲の機関が参加/利用可能となる点が特徴となっているのです。

「FedNow」のサービスを利用することによって、金融機関間でのリアルタイム決済が24時間365日可能となるため、米国で用いられることが多い小切手のように換金するまでに数日要してしまうことなく、振出先口座に送金必要額が残高として存在する限り即時での送金が可能となることで米国における小口決済の環境を大きく変える可能性があります。

決済手段として現在主流となるクレジットカードやデビッドカードなどと比べると手数料も安価な金額で提供される予定であり、既存の決済サービスを提供する金融機関にとってはかなり手強い競合サービスとなりそうです。

そのため、「民業圧迫となる」との批判も多いサービスとなりそうですが、現在の民主党政権を中心とした推進派としては中央銀行デジタル通貨(CBDC)発行を見据えた取り組み、既に提供を開始しているデジタルウォレット「FedAccount」への取り組みと共に、デジタル通貨の流通が今後主軸となった際にもドルが国際基軸通貨であり続けるために必要な動きとして注力度を高めているものと見られます。

2023年7月20日のサービス提供時点では中央銀行デジタル通貨(CBCD)との関連は否定されているが、上述の通り推進派は検討を求めており、今後導入に向けた検討が始まる可能性は高い。

「FedNow」が与えるメリット/デメリット

メリット

1.リアルタイム決済が24時間365日可能となる

米国においてもクレジットカードやデビットカード決済が占める比率が高くなったことで全体の比率としては減少しているものの、依然として利用が多い小切手などでは換金するに当たって数営業日が必要となります。

それに対して「FedNow」ではリアルタイム決済が24時間365日可能であることから入出金を即時に実行できるのです。急を要する支払いなどにも対応が可能となることから、特に企業間取引などでの迅速な決済は利用者に取って大きなメリットとなるとみられます。

また、従業員にとっても給与を即座に受け取ることができ、その日のうちに利用可能となるなどのメリットが得られます。よりリアルタイムでの消費活動が促され、経済活動の活性化に寄与することが期待されるのです。

2.プラットフォームに縛られない決済サービス

クレジットカードやデビットカード、あるいは現在利用が進んでいるさまざまな電子決済サービスにおいては、カード発行事業者や電子決済サービス提供事業者が発行/提供するカードやアプリを利用するためのプラットフォームに縛られる面があります。

それに対して「FedNow」は特定のサービスに縛られることなく利用が可能なサービスとなっており、それぞれの利用者が同一プラットフォームを利用しなくても決済が可能となります。FEDに口座を保有できる金融機関であれば「FedNow」に参加が可能であり、対象金融機関と紐づいたサービスであれば異なるプラットフォーム間での決済も可能となるのです。

そのため、これまでは同一サービスにおいてアカウントを作成したり、対応する端末を導入したりするための手間やコストがかかっていた企業/団体などでは、特にそのような新たな新規投資を行わなくても決済サービスの導入が可能となることから、サービス提供開始によって自社で取り扱う決済サービスの中心に「FedNow」を置くところも出てきそうです。

このようにサービスを利用する企業/団体および消費者にとって「FedNow」への移行は比較的容易となることが想定されており、電子決済サービスなどを提供している民間企業/団体よりも利用対象は広く、決済サービスを採用する企業/団体が増えることが期待されています。

3.手数料が安い(予定)

「FedNow」のサービス価格(手数料)はクレジットカードなど現在提供されている電子決済サービスよりも安価に設定されており、小売店などの事業者が「FedNow」を決済手段として採用することで既存の決済サービスよりもコストを抑える形で運用できる点もメリットと見られています。

決済サービス導入を見送っていた企業/団体においても採用されるケースが増える可能性は高く、消費者にとってもリアルタイム決済の新たな手段が増えることで支払いが容易になる点がメリットとなると見られます。

デメリット

1.民業圧迫の可能性

「FedNow」が提供されることにより、既に電子決済サービスの提供を行っている金融機関などに対して、民業圧迫となる可能性があります。上述の通り、既存の電子決済サービスよりも安価な手数料で利用が可能となる面もあり、「FedNow」の利用が広がれば広がるほど既存電子決済サービスの収益が悪化する恐れが出てくるのです。

「FedNow」自体は一般企業/団体や消費者が直接接続することができるわけではなく、金融機関を経由して接続していくものとなるため、金融機関などが「FedNow」を利用したサービスを提供するといった形で利益を享受できる面はあるものの、既存決済サービスへの投資をやめることは難しいなど課題は残ることになります。

2.FinTech企業への影響

民業圧迫にも関連する話になりますが、FinTech企業などが提供するサービスではクレジットカード決済などの手数料を収益源としているものも少なくありません。既存電子決済サービスに依存している形のサービスを提供しているFinTech企業では「FedNow」の利用が広がることによって既存電子決済サービスの利用が減れば収益に直結してしまう可能性が出てきそうです。

今後の展望

2023年7月のサービス提供以降、「FedNow」上に決済サービスを構築する動きが進むなど、米国における決済サービスにおいて強力なサービスになってきている。

クレジットカードやデビットカード決済に与える影響などによっては金融業界が大きな変化を迎える可能性も高く、2024年に入りどのような影響が出てくるのかを引き続き情報として追っていきたい。

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